この展覧会について記すにあたり、「アニメーション」を「アニメ」と省略することに、どこか抵抗感をおぼえました。
今回の出品作が、技術的な巧緻と洗練を極め、エンターテイメントとして確立された「アニメ」とは異なる可能性を志向しているからだと思います。
「動く絵」が持つ原初の豊かさに触発され、そのポテンシャルを規格はずれの力技で他の領域にまで拡張させている、ということが本展の特徴だと言えそうです。
■湯川静 & Murderous Ink湯川さんたちが作っている同人誌『ビンダー』を読めばわかるように、お二人のアニメーションへの造詣は深く、映画史的な観点からサブカル的な側面にいたるまで幅広くフォローしています。
そんな二人の作品は、ダダイストとして知られるハンス・リヒターが1920年代に制作したアニメーション『リズム』を、2台のプロジェクタで投影するというもの。
幾何学的・抽象的なアニメーションを重複させることで、交響曲のような複雑な深みを生み出しています。
ブゾーニから対位法を学んだリヒターもまた、「動く絵」の可能性に着目した最初期の一人なのでした。
『Re : Rythumus 21 & 23』
■Makoto Sugawaraコンピュータグラフィックスを本業にしているMakotoさんが、一方で、パラパラ漫画や折り紙やモビールといったプリミティブな表現を堅持しているというのは重要なことだと思っています。
そのバランス感覚は、どこかMakotoさんがつくるモビールのユーモラスなキャラクターたちのように飄々としています。
『光の人々』
『影の人々』
『色の動物』
■松本力松本さんがつくるアニメーションの、野蛮とも愚直ともいえる大胆さには畏怖の念すらおぼえます。
「絵が動く」ということへの褪せることのない驚き、一途な執着といったものが感じられます。
VOQさんとのコラボレーションからもわかるように、松本さんのアニメーションが音楽と強い親和性があるというのは、かなり本質的なことに関わるのかもしれません。

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『52 Specters/yona』
『やわらかい目 かたい目』
■永岡大輔最終日のトークを拝聴し、ドローイングアニメーションから「球体の家」プロジェクトへの移行には必然性があると腑に落ちました。
永岡さんのテーマは「線を引く」ことです。
痕跡や軌跡といったものが内包する時間や歴史への関心が、一見かけ離れた二つの仕事を繋げています。
永岡さんの使う比喩で言えば、線を引く道具であるボールペンの、先端のボールに住む、という発想が「球体の家」なのです。
『The First House』

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『The Sphere House』
『最初の家 定点記録』
『The First Supper』
トークイベントの永岡大輔さん
(※は松本力さん、※※は関根正幸さんの撮影です)