「一番長く所有している」という共通項だけで集められた80点近い物たちは多岐にわたりますが、ごく大雑把に、道具類、文具、玩具遊具、書物、衣類、調度品、制作物、蒐集物などに分類できそうです。
いずれも少々時代がついていて郷愁を誘ったりすることをのぞけば、おおよそ日常にありふれたものばかりと言えます。
使い込まれたそれらの物を陳列してみても、ただ蚤の市みたいになるだけではないかと懸念していたのですが、整然と並んだ展示からは幸いあまりそんな印象を受けないようです。
その理由はキャプションにもあるように思われます。
各出品物には所有年数や所有者の肩書き、年齢、居住地、引っ越し回数などの情報とともに、その物の来歴が簡単に(簡単には済まない方もおりますが)記してあります。それを読むことによって、来場者は単に物としてだけでなく、そこに含まれた物語も一緒に鑑賞するわけです。
また、キャプションには所有者の名前は記載されていません。
なので、観る人は上記のデータと物から持ち主についてあれこれ想像をめぐらせることになります。
面白いのは、所有者の現在の職業や人柄にいかにも相応しい物が出品されているケースが多いこと。画家の出品物が子供の頃描いた絵であったり、建築家は工作の授業で作った堅牢な本箱だったり、バーのあるじが包丁と俎板だったり。
そういえばこんな物あった、とか、自分も同じ物を持っていた、といった声もよく聞かれ、一揃いの色鉛筆を前にして、なぜ色々なメーカーの鉛筆が混ざっているのか、どの色がよく使われて短くなっているか、といったことを延々語りあう来場者もいたりします。
こんなふうに物と対話しながら様々な角度から鑑賞をすることができるので、どなたでもかなり楽しめるのではないかと思います。
日曜日には画家の橋本倫さんにお話をして頂きました。
博覧強記で知られる橋本さんだけあって、話は日本における道具との関わりから始まり、中国や西洋との比較、さらには物がなぜ霊性を帯びて付喪神となるのかを、独自の視点からアクロバチックに論じ、些か難しくはありましたが、今回のコンセプトに深みを与えてくれました。
橋本さんには「一番長く持っている物」というルールをちょっと逸脱して、最も古いと思われるもの数点を使って、地下室備え付けの金庫にインスタレーション的に自由に展示してもらいました。
ご本人いわくコーネル風とのことでしたが、幼少時に蒐集した貝殻と、百人一首の木の歌留多に書かれた草書の文字が、なんだか呪術的な雰囲気を醸しています。
最終日の4/5は、フランス人のアーティスト、エザール・ドミニックさんや最年少参加者で大学生の朴秀太さん、高円寺でバー「鳥渡」をやっている写真家の広瀬勉さんなどにお話を伺う予定です。
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