参加作家の出品作をそれぞれいくつかご紹介します。
■赤木仁赤木さんの絵の背景には、往々にして独自の奇想天外な物語が存在し、その物語に登場するモチーフの多くは子供時代の記憶に由来するようです。
鉱山の水路を描いた作品も、子供の頃によく遊んだ郷里の風景とのことで、六角形の石組みは期せずして連画の中にもあらわれていました。
連画では、どんなシンプルな線を描いても赤木さんらしさが滲み出て、強烈な個性を改めて実感させられました。
「AZUCHI 九十六 あなたまはやみたにふたわたらす五」(2008年/キャンバスに油彩)
「尾小屋鉱山跡カラミ水路昭和四十年」(2011-12年/パネルに油彩)
■越前谷嘉高馴染みのある図柄や記号も、越前谷さんが描くと、ふわふわとした浮遊感をたたえた独特の景色になってしまうから不思議です。
連画において、終始挑発する役に徹して波乱を呼び込んでいた越前谷さんですが、タブローではあまり見ることのないようなイメージを次から次へと繰り出してきたのは少々驚きであり、画家の奥深さを垣間見たように思いました。
「線描雲水の習作」(2012年/キャンバスにアクリル)
「朝」(2008年/キャンバスにアクリル)
■椚田周和屈指の崇高なロマン派的絵画の描き手である貝野澤章の風景画を、あろうことか、椚田さんが加筆して別の作品にしてしまっています。
連画というテーマを踏まえての暴挙と推測されますが、判じ物めいた文字や記号で埋め尽くされてすっかり豹変した作品を前にしてみると、種村季弘さんの薫陶を受けた方だけあって、江戸の諧謔精神に近いものを感じます。
連画では、思いがけないギミックで不意打ちする危険人物として警戒されておりました。
「round harmony」(2017年/色鉛筆ほか)
元になった貝野澤章の作品
■黒須信雄黒須さんほどひとつのスタイルと方法論を堅持し続ける画家は稀有であり、その揺らぎのなさには畏敬の念をおぼえます。
でも、やはりそこに収まらず溢れ出てしまうものがあるようで、近年では木彫を手がけたり、企画者として今回の連画のようなユニークな試みを次々と生み出しています。11月には画家と詩人を組み合わせた「画賛」の展覧会を目論んでいるそうです。
「夜良比 N0.25」(2016年/キャンバスにアクリル)
「夜良比 N0.26」(2016年/キャンバスにアクリル)
■橋本倫今回は出来たての新作を3点出品して頂きました。
博覧強記で知られる橋本さんは、古今東西の美術史や図像が頭の中にアーカイブ化されていて、この顔のない獅子はタイの仏教美術に、もうひとつは、聖骸布などに発想の源泉があるそうです。
連画でも、引き出しの多さと筆の速さは他の追随を許さず、あっという間に独りで完成された絵を描いてしまうので、後に続く人が苦労していました。
「獅子風の形態の静かな歩み」(2017年/キャンバスに油彩・アルミ親和性金箔)
「お花見の気配Ⅰ」(2017年/キャンバスに油彩)
■吉川陽一郎「うたげと孤心」というタイトルの連画の展覧会で、まず最初に目につくのがこの作品というのはなかなか愉快です。
ご自宅の洗面台をベニヤで忠実に再現したこの彫刻からは、巧まざるユーモアと同時に、どこかモノを作るということに対するニヒリズムみたいなものが感じられます。
画家たちの中に彫刻家の吉川さんを配した人選の妙。連画では絵描きにはない発想で流れを変えるギヤのような役割でした。
「渚 -なぎさ-」(2017年/合板・ステンレススチール)
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