これだけ大勢参加するのに三日間だけでは勿体ないように思っていましたが、活気が濃縮されて、案外これくらいでちょうどよかったかも知れません。
「サムと愉快な仲間たち」とでも呼びたくなる、にぎやかで楽しいイベントでした。
展示については、サムが各作家に出したオーダーは、30センチ四方、高さ170センチに収まるものというシンプルな条件だったようで、企画してからそれほど時間がなかったにもかかわらず、多種多様な作品が集まりました。
タイトルにある「Liminal」という言葉を、みなさんどのくらい意識したかはわかりませんが、作品を一通り見て、わりとしっくりくるような気がしました。
初めての作家ばかりだったので、いずれの作品も興味深く拝見させてもらいました。
◾️Chiyo Arae服飾の素材を用いることの多いアラエさんは、刺繍のフープフレームを使った作品。
垂直に吊り下げられた何十本もの針が剣呑な雰囲気を醸しています。
◾️ガリ・ボウアヤド Ghali Bouayadモロッコ出身で藝大美術研究科建築専攻のガリさん。
複雑に入り組んだ平面の模様を三次元にトランスレートし、工芸品のような緻密さで物質化しています。
◾️舩橋陽 Yow Funahashi今回演奏もしてくれたサックス奏者の舩橋さんが作った二弦楽器。
モーターで回転するピックが弦を弾くと、遠くで梵鐘を撞くのにも似た幽き音が響きわたります。
◾️権瓶千尋 Chihiro Gompeiもともとはテキスタイルを学んだという権瓶さんのブリコラージュ的オブジェ。
テーブルの脚にさまざまな素材を巻きつけ、緑色のベッチンのフードがかぶせられています。
◾️アキレス・ハッジス Aquiles Hadjisギリシャ生まれのベネズエラ人のアキレスさん。
暖簾のように垂れた部分に触れると、バチバチとノイズが鳴ります。時折り触っていないのに鳴り出して止まらなくなることがあり、その気まぐれな賑やかさはなんだかアキレスさんにそっくりでした。
◾️サブリナ・ホーラク Sabrina Horakオーストリアと日本のハーフで、昨年藝大の油画博士課程を修了されたサブリナさん。
色鉛筆とコラージュによるこの作品は、パラダイスを目指すヒロインの物語を描いたシリーズの一枚。
◾️ジェシー・ホーガン Jesse Hoganオーストラリアのシドニー出身のジェシーさん。
地下室にあった端材にネオン管を取り付けた作品。制作中はあれこれ試行錯誤していましたが、最終的にとてもシンプルな形に落ち着きました。
◾️保坂毅 Takeshi Hosaka壁に貼られた蓄光テープによる作品。
厳密に構成され、立体的に浮き上がって見える幾何学模様。パフォーマンスが行われる舞台の側面の壁に配置され、照明が暗くなったりした時にかろうじてその存在が感知されるように作られています。
◾️ジェイミ・ハンフリーズ Jaime Humphreys不動産屋に紹介してもらった「趣きのある」アパートを内見して撮影した映像と、床のあちこちにステンシルとチョークの粉で描いた間取り図。
床の間取り図は、踏まれると消えてしまい、会期中ジェイミさんは毎日描き足していました。
◾️椛田有理 Yuuri Kabataストレッチフィルムが巻かれ、ラメっぽい彩色が施されて金属的な不思議な質感を持った、モノリスみたいな長方体の作品。
椛田さんは企画もされるとのことで、おもしろいやつ、お待ちしてます。
◾️小林あずさ Azusa Kobayashi小林さんは藝大の油画博士後期課程に在籍。
一見ファンシーでありながら、よく見ると耳や髪の毛といったモチーフが描かれていて、グロかわいい寓意的なイメージが展開されています。
◾️ジャック・マクレーン Jack Mcleanマッチ棒で作られたエディンバラの世界遺産「フォース橋」。
展示されたこの作品を見てつい火をつけてみたくなったので、実際にジャックさんがパフォーマンスで燃やしてくれて痛快でした。
◾️坂口寛敏 Hirotoshi Sakaguchi昨年、藝大を退任された坂口先生は、参加作家であるサムさん、アキレスさん、小林さんたちの恩師。
絵画を出品されるのかと思いきや、ミニトマトの苗木。最近トマト作りにはまっているそうで、茎が螺旋状に巻かれています。
◾️サム・ストッカー Sam Stockerサムはペインティングとブロックの作品。
各出品作の展示の土台に使おうとブロックを大量に購入したものの、余ってしまったので即興的に制作されたのですが、仏塔かなにかのようにも見え、ちょっと面白い作品になりました。
◾️常木理早 Risa Tsunegiクリスマス用のオーナメントを依頼されて作ったという二頭の馬の置物。実は足裏がそれぞれ「O/K」と「N/G」というスタンプになっています。
装飾的なものと実用的なものが併存している可笑し味。
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