8人の踊り手による「板橋舞踏祭」は、おかげさまで盛況のうちに閉幕いたしました。
こうやって複数の踊りを通してみると、個別に鑑賞するのとは違った景色が見えてくるようです。
なにより舞踏とは、可塑性を持った現在進行形のジャンルだということ。
誕生から半世紀以上を経て、舞踏はもはや前衛の役割を担っていないとしても、古典(繰り返し上演され規範となる演目)を持たず、そのつど踊り手たちによって新たな試みが模索されています。とりもなおさずそれは、さまざまな試みの中で舞踏という確固とした輪郭が消えてしまう可能性も孕んでいます。
ヴァリエーションに富んだ8人の踊りを拝見して、あらためてそんな感慨をおぼえました。
今回はサブテレニアンの協力を得て、2つの場所で踊りを見比べるという試みをやってみましたが、どんな空間であれ自在に踊ることのできるのが舞踏家の真骨頂だと得心しました。
ゲネプロしか拝見できなかったものもありますが、それぞれの踊りをご紹介します。
■徳田ガン初日のマチネはベテランのお二人にサブテレニアンで踊っていただきました。
ラフマニノフのピアノ協奏曲が流れるなか登場したガンさんは、とてもエレガントで、多くの優れた舞踏がそうであるように、年齢も性別も超越していました。その老練にして優美な踊りは掬すべき滋味にあふれ、いつまでも観ていたくなりました。
■相良ゆみ相良さんの踊りは、つい先だって亡くなられたアルトー館の及川廣信さんへのオマージュです。
及川さんは舞踏の草分けであり、相良さんや徳田ガンさんにとって師ともいうべき存在。相良さんは及川さんの「ゴッホからウッチェロへの手紙(大洪水)」という作品を再演しました。初演において、4部構成のうち1部と3部は相良さんに振り付けられ、2部と4部を及川さんが踊られたものを、今回相良さんがすべて独りで踊りました。
■永守輝如ソワレは地下室で、大野一雄舞踏研究所出身の若手2人が対照的な踊りを披露。
永守さんは身長190センチ。天井の低い地下室ではまっすぐ立つことも叶わず、白塗りされた大理石の彫像のごとき体躯は、制約を受けることで巧まずして悲劇性を帯び、まるで神話に出てくる虜囚のようでした。
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■久世龍五郎素肌に黒いジャケット、ネクタイ、ブリーフ、それに靴下と革靴というビザールな装いであらわれた久世さんは、カホーンやハーモニーパイプなどの音響に機敏に反応しながら、空間を縦横に使って軽妙洒脱な踊りを繰り広げました。
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■レンカ2日目のマチネは女性の踊り手が2人。
レンカさんは果敢にもまったく無音での上演に挑戦。ケレン味を排したシャープでけざやかな踊りを展開し、30分間にわたって観客の集中力を途切らせることなく緊張を持続させた手腕は見事でした。
■実験躰ムダイムダイさんは妊娠8ヶ月の身重の体に妖艶な着物を纏って登場。フルートなどの演奏と絡みながら、ぽってりとふくらんだお腹を晒し、白粉の匂い立つような、なよやかな踊りを披露してくれました。
■園田游かつて伝説的なバンド「グンジョーガクレヨン」に在籍していた園田さんは、乞丐か大道芸人のような佇まい。極度にゆったりと動く型破りな踊りで、ときに滑稽な仕草をおりまぜながら観客を煙に巻いていました。
■成田護フェスティバルの掉尾を飾った成田さんは、世評の高い「死踏」を8年ぶりに再演。蝋燭の灯りだけで踊るこの作品は、地下室だとアニミスティックな雰囲気が増幅され、あたかも洞窟の中でとりおこなわれる始原の儀式を見るようでした。
(※印の写真は関根正幸さん、それ以外の写真は田中芳秀さんの撮影です)
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